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2010年08月31日

夏目漱石

岩波の漱石全集で、いくつかの作品を読んだことがある。

読みやすく文字を直した文庫版で読むのとは一味違う面白さが味わえたことのひとつが、漱石の当て字である。

現代では、当て字での表現はあまり使われないし、使っても間違っているくらいにしか受け取られない。
しかし、漱石先生のお作となると、当て字も味わいとなり、そこはかとない情趣を醸し出すのである。

当て字を使った背景を推察するに、いくつかの理由があるのではないかと思う。

理由その一 
当時は口語文を作っていく過程であり、表現をさまざまに模索していた

理由その二
定型化した表現がなかった

理由その三
読み物としての面白さを出すため

理由その四
豊かな漢学の素養が漢字をおのずと使わしめた(少年時代、漢学塾二松学舎に学んでいる)

こういったことを、小生は推測するのである。

それでは、デビュー作の「吾輩は猫である」(明治三十八年~三十九年)からいくつか拾って、楽しんでみよう。

可笑しい→おかしい・・・現代でも、たまに見かける。

兎に角→とにかく・・・今ではなかなかお目にかからない。ちなみに、私の母の女学校(戦前の話です)時代には、教科書でも使われていたらしく、音読を指名された同級生が、自信たっぷりの大きな声で、「うさぎにかく!」と読んで、教室じゅう大爆笑だったという話を何度も聞かされた・・・(余談)

無暗に→むやみに・・・現代ではまず使いませんね。

矢張り→やはり・・・これも使わないですな。間違ってると言われそう。

可成→なるべく・・・かなり、と読んでしまいそうだが、レ点で返れば、確かに成るべくである。漢学の素養がにじみ出る。

成程→なるほど・・・スゴイ当て字。

切角→せっかく

薩張り→さっぱり・・・ムチャクチャな当て字。江戸っ子として薩摩への何がしかの思いが周囲にあったのだろうか?

故意とらしい→わざとらしい・・・意味からの当て字。

夫が→それが・・・まともに読んだらオットが。漢学の影響でしょう。

掛念→けねん・・・今は懸念と書くのが一般的ですな。

積り→つもり・・・今はひらがなで書くのが普通。しかし、「積もる」の変化だから、この漢字を当てるのは間違いではない。

這入ります→はいります・・・今は入りの一字を使うが、なんとも滑稽味のある表現だ。

気合→「けはい」とルビがふってある。不思議な用法だ。

報知に来る→「しらせ」とルビ。ご丁寧だ。

それに就て→それについて・・・まさに漢文。

魂消た→たまげた・・・文字通り意味通り語源通り。むしろ現代でもこう書くべきかも。

存在な言葉→「ぞんざい」とルビ。かなり無理な使い方だが、果たして語源は?

上記は氷山の一角なのだが、他の小説では「八釜しい」なんていうのもあったような覚えがある。

当て字をいちいちあげつらうとは、実に八釜しい話でございました。



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Posted by ひだかしげかず at 10:02│Comments(0)日々のこと
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